は じ め に
高齢社会を迎え、“寝たきり”にならないための生涯を通じた“健康づくり”が、現在最も重要な課題として大きくクローズアップされてきている。
特に歯の健康づくりについては、「失ってはじめて分かる歯の大切さ」ということにならないためにも、二大疾患である“むし歯”と“歯周病”に対する徹底的な予防対策が必要である。
厚生省が推進している80歳になっても20本以上の歯を残そうという「80(ハチマル)・20(ニイマル)運動」を現実のものとして、一生自分の歯でおいしく食べることの喜びを、すべての市民が享受できるようにすることが、行政および歯科関係者の役割でもある。
本市においても、平成7年度に作成された「長崎県歯科保健大綱」(歯っぴいスマイルプラン)を基に、歯科保健の長期行動計画として、平成7年7月から地域性や現状を考慮した「佐世保市歯科保健大綱」の策定に着手し、佐世保市歯科保健大綱検討委員会において協議を重ね、この度その完成をみたものである。
今後は、市民の歯科保健を向上させるため、引き続き関係機関の協力により、本大綱に基づいて各種施策を推進していくこととする。
平成8年8月
T 総 論
1.歯科保健の現状
(1)経 緯
本市における歯科保健の取り組みは、歯科医師会等の協力により、保健、福祉、教育あるいは労働の各域で展開されてきており、平成元年には市に歯科衛生士が配置されたことにより、特に母子保健あるいは成人保健の分野における施策の拡充が図られた。
しかし、行政担当部局ごとの対策を行うのみならず、ライフステージに応じた総合的な歯科保健施策を行う必要があることから、平成4年4月に策定された「佐世保地域保健医療計画」の中で、各種施策について取りまとめられるとともに、市行政における歯科医師の配置についても検討する必要性が指摘されていた。
また、平成5年7月から佐世保市の歯科保健の実態を把握するために福岡歯科大学予防歯科から非常勤歯科医師を2ヶ月に1度招き、現状の把握・分析を行った結果、本大綱の策定の必要性が認識された。
(2)歯科疾患の現状
国民病とも言われるむし歯をはじめとして、歯を失う二大原因の1つである歯周疾患はもとより、最近では生活環境、特に食生活の変化に伴うと考えられる歯並びやかみ合わせの異常の増加、さらに顎の関節疾患が若年者にもあることの問題もみられる。
なお疾患の状況については、各ライフステージでの項に詳しく述べることとする。
また、障害児(者)や特に超高齢化社会を目前にした介護を要する高齢者の摂食・嚥下困難への対応など、新たな問題も生じており、現在の歯科医療は、むし歯や歯周疾患だけの問題ではなく、顎と口の機能を全体としてとらえた健全な総合咀嚼器官の育成および健康の保持増進を目的とした考え方になってきている。
(3)歯科保健従事者等の状況
平成6年12月末日現在の歯科保健従事者数をみると、人口10万人対で歯科医師数は、全国64.8人、長崎県71.5人、佐世保市67.3人、また歯科衛生士数は、全国39.8人、長崎県40.5人、佐世保市54人、歯科技工士数は、全国27.6人、長崎県33.1人、佐世保市39.2人であり、県、市とも全国平均をやや上回っている。
また、平成6年10月1日現在の歯科診療所数をみると、人口10万人対で、全国46.3ヶ所、長崎県44.4ヶ所、佐世保市53.1ヶ所で、全国、長崎県よりもかなり上回っているのが実状である。
一方、本市の高島及び黒島、また浅子地区には歯科診療所はなく、歯科保健医療サービスの地域間格差が生じている。
2.歯科保健事業の現状
本市において現在実施されている歯科保健関係事業の主なものは、次のとおりである。
(1)母子歯科保健事業
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妊婦相談 |
(母子健康手帳発行時の歯科保健指導) |
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母親学級 |
(所内・早岐[東部住民センター]での歯科保健指導) |
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1歳6カ月児健康診査 |
(歯科健診・歯科保健指導) |
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親子教室 |
(歯科保健指導) |
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3歳児健康診査 |
(歯科健診・歯科保健指導〔染め出しによるブラッシング指導〕) |
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幼稚園・保育所での
歯科健診 |
(ほとんどの園で年1回以上の歯科健診実施) |
(2)学校歯科保健事業
|
学校歯科健診 |
(学校保健法に基づき、小学校から高等学校まで年1回以上の歯科健診を実施) |
(3)老人保健法に基づく歯科保健事業
|
成人病巡回健診における
歯科健診 |
(歯科健診、歯科相談、歯科保健指導) |
|
歯科衛生教育 |
(成人病予防教室、町内会及び老人クラブからの依頼での実施) |
(4)コンテスト
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5歳児歯の健康優良児コンテスト |
(主催は県、佐世保地区予選として実施) |
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歯の健康優良高齢者コンテスト |
(主催は県、佐世保地区予選として実施) |
(5)イベント
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デンタルフェスティバル |
(歯の衛生週間行事 毎年6月第一日曜日に実施) |
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健康と福祉フェスティバル |
(毎年開催される市民の健康づくりと福祉の向上の祭典
主催は「健康と福祉フェスティバル協議会」)
(保健・医療・福祉関係団体で組織された協議会) |
(6)休日救急歯科診療事業
平成元年8月より佐世保市歯科医師会の協力のもと、開業の歯科診療所において休日救急歯科診療を実施している(北部地区及び南部地区の2カ所での輪番制。診療時間は、午前10時から12時まで)。
3.基本理念
近年、高齢化社会を迎えて、歯科保健がますます重要視されてきているが、本市における歯科保健指標は、全国平均に比較すると低く、幼児期から学童期においては、著明にその傾向がみられる。
また、歯科診療所及び従事者数は、全国平均を上回っているものの今後は救急歯科医療体制や二次歯科医療体制の整備を行う必要がある。
むし歯に一度なると、自然治癒が望めず、損傷を受けたところは元通りにはならない。
また、歯周病についてもある程度進行すると元通りにはもどらないため、予防を中心とした歯科保健対策が生涯を通じて進められなければならない。
そこで、本大綱では、市民すべてが生涯にわたり健全な生活を送るために、妊産婦期・胎児期、乳幼児期、学童期、思春期、成人期、高齢期のそれぞれのライフステージ毎の対応策を設定すると同時に、ライフステージをまたがるものなど、より具体的な項目について、産業(事業所)歯科、要援護高齢者歯科、障害児(者)等歯科、休日救急・二次医療体制、離島対策について配慮に入れることとする。
そのうえで、それぞれの対策を効果的に展開するために、各種コンテスト、広報活動、健康教育等の普及・啓発を行うとともに、各ライフステージを通じた歯科疾患実態調査、関係機関の連携、歯科保健従事者の確保等推進体制を整備する必要がある。
4.目標の設定
歯科保健においてWHOでは2000年までの到達目標を設定し、また厚生省や日本歯科医師会では国民に対してより質の高い生活を送るために1991年より80歳で20本以上の自分の歯を保つ目的で「80・20運動」の推進を行っている。
本市においても「80歳で20本以上の自分の歯をもつこと」を長期的な目標とするが、それを達成するためにWHOの目標及び国、県の目標と本市の状況を踏まえ、中間目標として「65歳で25本以上の自分の歯をもつこと」(65・25運動)を掲げる。
長期的あるいは中間目標を達成するための段階的な目標として(表1)にある通り、本市における歯科保健目標を掲げ、その目標年次を西暦2005年(平成17年)とする。
また、学校歯科保健において、歯科疾患の予防がその後の歯科保健水準の向上に重要な意味をもつことから、従来より歯科医師会が掲げていた西暦2000年までの目標を引き続き設定するものとする(表2)。
なお、目標及び目標年次は、状況の変化に応じて随時見直すことができるものとする。
(表1)「佐世保市の歯科保健目標及び現状(目標年次 西暦2005年)」
目 標
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佐世保市(1) |
長崎県(2) |
全 国(3) |
@ 3歳児でむし歯を持たない者を50%以上にする
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40.7% '95 |
32.8% '94 |
48.9% '93 |
A 6歳児でむし歯を持たない者を20%以上にする
6歳児で永久歯のむし歯を持たない者を95%以上にする
|
79.4% '95
|
9.5% '94
|
16.9% '93
|
B 12歳児のむし歯数(DMF歯数)を3本以下にする
|
4.10(本) '95 |
4.9(本) '94 |
4.0(本) '93 |
C 15〜19歳児のむし歯数(DMF歯数)を5本以下にする
|
7.14 '95 |
10.1 '94 |
7.8 ’93 |
D 30歳代の現在歯数を28本にする(おやしらずを除く)
|
|
26.7 '94 |
26.2 '93 |
E 50歳代の現在歯数を25本以上にする
|
|
19.6 '94 |
21.3 '93 |
F 65歳以上の無歯顎者(28歯喪失)の割合を30%以下にする
|
|
40.5% '94 |
29.9% '93 |
|
(1) 佐世保市歯科疾患実態調査結果より(平成7年度調査)
(2) 長崎県歯科疾患実態調査結果より (平成6年度調査)
(3) 厚生省歯科疾患実態調査結果より (平成5年度調査) |
(表2)「佐世保市の学校保健における目標及び現状(目標年次 西暦2000年)」
|
目 標 |
現在の佐世保市の児童、
生徒、学生の状況 (1) |
一人平均DMF歯数
小学校1年
小学校6年
中学校3年
高等学校3年 |
0.2 以下
2 以下
4 以下
6 以下 |
0.38
3.16
5.72
7.86 |
健全者率
小学校1年
小学校6年
中学校3年
高等学校3年 |
90%
30%
20%
10% |
79.4%
19.3%
8.7%
5.4% |
う蝕処置率 |
全学年
90% |
小学校1年 49.6%
小学校2年 56.9%
小学校3年 62.6%
小学校4年〜高校3年まで
平均 約75.2% |
|
(1) 佐世保市歯科疾患実態調査結果より(平成7年度調査) |
(参考)西暦2000年に向けての歯科保健目標(世界保健機関及び国際歯科連盟)と
わが国の歯科保健状況について
世界保健機構及び国際歯科連盟の歯科保健目標(1981年) |
わが国の歯科保健状況
(歯科疾患実態調査より) |
昭和56年(1981)年
(目標設定値) |
昭和62年(1987)年
(6年後) |
平成5年(1993)年
(12年後) |
目標1
5、6歳児の50%以上がむし歯にならないようにすること |
むし歯になっていない者の割合 |
5歳 7.12%
6歳 7.24% |
5歳 10.90%
6歳 9.52% |
5歳 23.03%
6歳 10.96% |
目標2
12歳の時点で全世界における一人平均DMF歯数が3以下となること |
12歳児のDMF歯数 |
5.43 |
4.93(*4.51) |
3.64 |
目標3
18歳の85%が自分の歯をすべて残存させていること |
15〜19歳で喪失歯がない者の割合 |
83.1% |
84.9% |
95.3% |
目標4
35〜44歳の無歯顎者が現在の水準より50%減少すること(75%の者が20歯を残していること) |
28本の歯が喪失している者の割合 |
0.5% |
0.06% |
0.14% |
目標5
65歳以上の無歯顎者が現在の水準より25%減少すること(50%の者が20歯を残していること) |
35.8% |
37.1% |
29.85% |
目標6
歯科保健状況の変化を監視するためのデータベースが構築されること |
|
5.本市における歯科保健の展開
本市における歯科保健は、以下の8つの方針により展開する。
@ 歯科保健に対する啓発・普及
A 歯科健診受診者の利便性の確保と受診率の向上(特に妊婦および成人)
B 要援護高齢者に対する歯科保健サービスの充実および包括的地域ケアシステムの確立
C 障害児(者)や福祉施設入所者の健診および治療体制の整備
D 二次歯科医療体制の整備
E 経年的データ集積・解析および施策の評価
F 市行政における歯科保健に関する施策の企画立案の担当窓口の明確化および歯科医師、歯科衛生士等の専門家の参画
G 保健・医療・福祉、教育関係機関および関係者から成る「専門部会」(仮称)の設置を含む総合的な歯科保健施策の推進体制の整備
6.本市における歯科保健対策の概要
区分 |
各ライフステージの歯科保健対策
|
対策推進のための環境整備 |
健診体制 |
普及啓発 |
具体的予防対策 |
普及啓発 |
推進体制 |
妊産婦期
・胎児期 |
妊産婦健診における歯科健診 |
妊娠教室
母子健康手帳
パンフレット・リーフレット |
歯に良い食習慣
妊婦に対する歯磨きの習慣 |
各種コンテスト・コンクールの実施
ポスター・パンフレット・リーフレットの作成配布
マスコミ・広報誌の活用
各種研修会・大会の開催
指導用マニュアルの作成
|
実態調査
行政内部の連携
関係機関の連携
学校等の体制
歯科保健従事者の確保
地域保健法との整合法
歯科健診情報の集積および一元化
|
乳 児 期
乳 児 期 A
0〜3歳 |
1.6歳児歯科健診
3歳児歯科健診
2〜2.6歳児歯科健診 |
母親教室
パンフレット・リーフレット |
フッ素塗布
フッ素入歯磨剤
甘味適正摂取
歯に良い食習慣 |
乳 児 期 B
4・5歳 |
保育所・幼稚園での定期歯科健診 |
パンフレット・リーフレット
歯の健康優良児コンテスト
保育所・幼稚園での講話 |
フッ素塗布・洗口
フッ素入歯磨剤
甘味適正摂取
歯に良い食習慣 |
学 童 期
6〜12歳 |
小学校における定期歯科健診 |
研修会
よい歯の学校表彰
歯科保健図画・ポスターコンクール
学校での講話 |
歯に良い食習慣
歯磨習慣の確立
フッ素洗口
フッ素入歯磨剤 |
思 春 期
13〜19歳 |
中学・高校における歯科健診 |
口臭・審美を考慮した普及・啓発
学校での講話 |
フッ素洗口
フッ素入歯磨剤
規則正しい生活 |
成 人 期
20〜64歳 |
成人病巡回健診
国保歯科人間ドック
節目歯科健診 |
節目健康教育
研修会 |
フッ素入歯磨剤
規則正しい生活 |
高 齢 期
65歳以上 |
成人病巡回健診
国保歯科人間ドック
節目歯科健診 |
研修会 |
口腔衛生訪問指導
栄養訪問指導 |
|
その他の歯科保健対策
|
|
|
産業歯科
(事業所歯科) |
定期歯科健診
人間ドック時の歯科健診 |
パンフレット・リーフレット
研修会 |
歯磨き習慣の確立
規則正しい食生活 |
|
三師会の協力体制の確立
二次医療体制の確保
搬送の検討
|
要援護高齢者に対する歯科 |
定期的な訪問
歯科健診 |
パンフレット・リーフレット
介護者への研修会 |
口腔衛生訪問指導
歯磨き習慣 |
障害児(者)等に対する歯科 |
障害者歯科協力医制度活用による定期健診 |
パンフレット・リーフレット
研修会 |
歯科保健管理者の設置
歯科巡回診療
口腔衛生訪問指導 |
子ども発達センター(仮称)における健診・相談 |
離 島 |
定期的な巡回歯科健診 |
講話 |
歯科巡回診療
歯科診療所の整備 |
U 各ライフステージの歯科保健
1.妊産婦期・胎児期
(1)現状と課題
胎児期は、胎児の乳歯の形成期及び永久歯胚の形成開始期という歯牙形成期においてとても重要な時期である。
妊産婦期は、身体的な変化に加え、精神的にも不安定になりやすい時期であり、妊産婦にとって、むし歯や歯周疾患が増加しやすく、妊産婦自身にとっても口腔管理が極めて重要な時期である。
現状としては、母子健康手帳の交付の際の妊婦相談において、妊娠期の特性により口腔内が悪化しないよう管理するための指導及び、口腔内変化の把握のための唾液PHテストを実施している。
また、初産婦を対象として母親学級を保健所内で4回を1コースとして年10回、支所(早岐)では、奇数月・年6回開設しており、その中で歯科保健として妊娠期の口腔内の変化と胎児の歯の形成や、出生から生歯までの口腔衛生についての指導を行っている。
今後の課題としては、妊娠期に特に大切な妊娠歯科健診の勧奨を行っているが受診率は低いのが実状であり、この時期の歯科健診の受診率を上昇させることが必要である。 母親学級および育児学級おいても、乳歯萌出前の時期に、母子ともに健康な歯および健康な口腔内を保つための歯科保健指導を拡充することが重要である。
(2)基本理念
妊産婦における母親の意識が、将来子供の歯科保健に大きな影響を与えると思われる。また、母親自身の口腔内が歯科疾患に最も罹患しやすい状況にあるため、妊産婦に対する歯科保健対策は、普及・啓発と妊婦歯科健診の両面から行う必要がある。
(3)対 応 策
@ 妊産婦の歯科健診体制の充実
母子健康手帳には、妊娠中及び産後の歯科保健についての項目があるが、今後この利用についての普及・啓発を行うとともに、妊婦歯科健診の実施体制について検討する。
A 母子健康手帳交付時あるいは母親学級等での普及・啓発の充実
母子健康手帳交付時、あるいは母親学級等において配布するパンフレット、リーフレットの内容の充実、ブラッシングの実技指導の実施、あるいは、母子健康手帳の歯科に関する項目の充実を図ること等により、妊婦に対する普及・啓発を行う。
2.乳児期・幼児期A(0〜3歳)
(1)現状と課題
乳児期から3歳児までの子どもに対する歯科保健事業として定められているのは、市町村業務の1歳6ヶ月健診と、保健所業務(平成9年度から市町村)による3歳児健診において実施される歯科健診と歯科保健指導である。
本市における平成7年度の1歳6ヶ月児歯科健診と、3歳児歯科健診の受診率は、88%(全国5年度87.9%、長崎県6年度91.9%)、91.4%(全国5年度85.2%、長崎県6年度90.6%)と高率である。
1歳6ヶ月児のむし歯有病者率は、平成7年度佐世保市6.8%(全国 6.4%、長崎県 9.7%)、一人平均むし歯数は、0.13本(全国0.19本、長崎県
0.3本)、また、3歳児のむし歯有病者率は、佐世保市59.3%(全国51.1%、長崎県67.2%)、一人平均むし歯数は、3.2本(全国2.42本、長崎県3.97本)と、1歳6ヶ月児から3歳児にかけてのむし歯の増加がきわ立っている状態である。
また、本市の乳児期・幼児期とも県の結果より若干よいとは言え、全国と比べては悪い状況である。そのため、幼いこの時期からの徹底したむし歯予防対策が必要である。
(2)基本理念
乳幼児期A(0〜3歳)は、乳歯が萌出し乳歯列が完成する時期であり、乳歯のむし歯が発生し、増加しはじめる時期である。
また、咀嚼機能が発達・完成する時期でもある。 このように乳幼児期の歯科保健は、歯の萌出から咀嚼機能の完成という最も重要な時期であり、また、正常な口腔内の発達に生活環境が大きく関係する時期である。
よって、乳幼児期におこなう定期的な歯科健診は重要であり、1歳6ヶ月児健診と3歳児健診以外にも、細かな配慮が必要である。
(3)対 応 策
@ 歯科健診体制の充実と歯科保健指導の実施
ア.1歳6ヶ月児健診時並びに3歳児健診時における歯科健診と事後指導(う蝕感受性に応じた指導)の充実を図る。
イ.2歳から2歳6ヶ月の間に歯科健診の追加について検討する。
ウ.4ヶ月児健診、1歳6ヶ月児健診、3歳児健診ともにむし歯予防対策・歯質強化に対し、一貫した歯科保健指導の充実を図る。
また、各健診でのむし歯予防啓蒙・啓発を行う。
A フッ化物応用によるむし歯予防対策
ア.1歳6ヶ月児健診あるいは3歳児健診におけるフッ化物塗布の実施について検討する。
イ.家庭における、フッ素入り歯磨剤を使用した歯磨きと、歯科医院におけるフッ素塗布を推奨する。
B 甘味の適正摂取によるむし歯予防対策
この時期は、間食の種類・量ともに増加する傾向にあることから家庭においては、おやつの回数と内容に気をつけ、おやつの後にはうがいや歯磨きをする習慣を定着させるよう奨励する。望ましい間食摂取等について、むし歯予防教室において指導する。
C むし歯予防教室の充実
保健所および各地区などにおいて、親子教室をはじめとする、むし歯予防教室を行っている。
それに対しての歯科保健指導内容の見直しと充実を図る。
3.幼児期B(4・5歳)
(1)現状と課題
この時期の4・5歳の幼児は、ほとんどが保育所か幼稚園に通っている。本市には、保育所が44カ所(公立保育所7カ所・私立保育所(園)37カ所)、幼稚園が38園(公立幼稚園8園・私立幼稚園30園)ある。
現在、保育園・幼稚園各園では、毎年1回以上の歯科健診ならびに歯科保健指導が行われている他、むし歯予防や健康な歯を保持するための実技指導・講演会の開催や、歯の健康優良児コンテスト等の参加をとおし、健康な歯の啓蒙活動を行っている。
今後の課題としては、保育所・幼稚園での健診及び指導の確実な実施とその充実、歯科保健指導者の養成・確保及びフッ素洗口等を含めたより効果的な歯科保健の検討が必要である。
加えて、無認可保育施設に通っている幼児、あるいは保育所・幼稚園に通っていない幼児に対する歯科健診体制の整備についても検討する必要がある。
また、歯科健診結果の蓄積及び分析を行い、各種施策の評価、推進を行うことも重要である。
(2)基本理念
幼児期B(4〜5歳)は永久歯が萌出する時期であり、乳歯及び永久歯のむし歯が発生し増加しはじめる時期である。
この時期に、効果的かつ効率的にむし歯を予防していくためには、よりきめ細かな歯の健康管理と家庭はもとより施設の理解と協力を得て、歯磨き習慣の定着や口腔内の健康管理を推進する環境づくりを図る必要があり、特に保育所・幼稚園において幼児の歯の健康対策を推進することは、子どもの健全な成長を促すうえからも重要である。
(3)対 応 策
@ 保育所・幼稚園における歯科健診の確実な実施とその充実
A 保育所・幼稚園に歯科園医の委嘱の推進
B 歯科健診結果集計および歯科保健状況のデータの管理(むし歯の有病状況・予防への取り組みの実態の把握等)
C 歯科保健指導の充実
歯科医師会をはじめ、関係機関の協力により咀嚼機能に関する指導も加えた幼児および保護者に対する歯科保健指導の充実をはかる。
D フッ素洗口を中心とした予防対策の推進
この時期のむし歯予防法として最も効果的であるのがフッ化物の応用であり、保育所・幼稚園において希望する者に対して定期的にフッ素洗口を実施するように奨励するとともに、家庭におけるフッ素入り歯磨剤の使用を奨励する。
E 歯に良い食習慣の確立
良質のタンパク質やビタミン、カルシウム、リン、フッ素など、歯の形成に必要な栄養素を含む食事を十分に与えることが大切である。
また、硬いものが適度に入った食事を十分に咀嚼しながら摂取させることなど、歯や顎の成長・発育に配慮した食習慣について施設や家庭で啓発を図る。
F むし歯予防の実践体制の確立
施設において、歯科保健に関する必要な設備等の充実を図るとともに、実践及び習慣化に結びつく歯科保健指導を行うなど幼児期から学童期への連続した歯科保健施策を展開する必要がある。
4.学童期(6〜12歳)
(1)現状と課題
a)現状
学童期は乳歯から永久歯への交換期にあたり、新たに萌出したばかりの永久歯は成人に比べてやわらかく、学童期はむし歯の多発期である。
さらに、食生活や食事内容の変化により、口腔内環境の悪化と歯や口の清掃不良によって歯肉炎も起こる時期である。
学童期においてもむし歯は依然として学校保健の中で最も高い有病率を占めている。
しかもむし歯や歯周疾患は一度罹ったら一方的に悪化する非可逆性疾患であり、公衆衛生学的に発症しないように予防を十分に行うべき疾病であるにもかかわらず、日常生活に左右される疾病のためにコントロールが難しい。
本市における実態は、以下の通りである。
@ むし歯に関して
WHOの一人平均のむし歯の目標値は12歳児において3本以下であるのに比して本市ので現状は平成7年度調査で 4.1本である。
平成3年においては4.6本であり、この5年間で多少の減少はみられるが目標には達していない。
また、永久歯のむし歯有病者率は小学校1年で20.6%であるが小学校6年で80.7%であり(平成7年度実態調査)、学童期はむし歯予防をおこなう生涯歯科保健で最も重要な時期である。
A 歯周疾患に関して
歯周疾患の調査は平成7年度より定期歯科健診に加え、歯垢の状態、歯肉の状態が項目として追加されたのと同時に、その診断により歯周疾患要観察者(ブラッシング指導が必要な者)及び歯周疾患のある者(治療や保健指導が必要な者)が健診結果の指導対象者として追加された。
平成7年度の歯周疾患調査における、12歳児の結果は、歯周疾患要観察が28.8%、歯周疾患がある者が8.1%であった。
現在の取り組みとしては、学校保健法では就学時、定期及臨時歯科健診が義務づけられているが、本市においては、さらにこの健診結果に基づき、歯科保健教育の一環として「歯の衛生週間」を中心として指導あるいは講話等を行うとともに、学校保健委員会を設置し、その中で歯科保健施策についても検討することとなっている。
近年、学校行事は精選傾向にあり、学級活動での歯科保健指導の時間の確保が難しい状況にある。
b)今後の課題
@ 歯や口腔系の健康に対する意識の高揚
A 学校・家庭・地域の連携による歯の保健指導の充実と推進
B 学童期の一貫した歯科保健指導の充実
C 特別活動における歯の保健指導の時間の確保
D むし歯や歯周疾患の予防に対するフッ素洗口やブラッシング指導
(2)基本理念
この時期は学童自身のみで積極的に歯や口腔系の健康の保持と増進を行うことは難しいため、学校生活の中における歯科健康診断、歯科教育、むし歯や歯周疾患の積極的な予防を通じて、以下にあげるように生涯を通じて主体的に健康づくりに取り組む学童を育成する。
@ 自分の歯や口の中を理解させ、それらの健康を保持・増進できる態度や習慣を身につける。
A むし歯や歯肉炎の予防に必要なフッ素洗口、歯の磨き方や食生活のありかたを理解し、歯や口の中の健康を保持・増進できる態度や習慣を身につける。
(3)対 応 策
@ 学校のおける取り組み
- 学校歯科保健の年間計画をたてるにあたり、歯科健診(定期、臨時を含む)の結果を経年的に蓄積したもの等をもとに、学校保健委員会で自校の問題点と改善策を学校歯科医とともに作成し、学校において望ましい食生活についての理解や歯磨き習慣をはじめとして、積極的に健康を保持・増進する態度や習慣づくりの取り組みを促す。
- 学校主催による教職員および保護者への学校歯科保健の研修会を開催し、学童期の歯磨き習慣と併せてフッ化物の応用意識の高揚を図る。
- 平成3年度より実施している歯科疾患実態調査の集計については、学級担任や養護教諭に協力を依頼し、この結果をもとに児童の口腔の健康を把握すると同時に、学級単位の歯科保健活動に利用する。
- 本市の全小学校で開催している「よい歯の学校表彰」には表彰校以外でも進んで参加し、自校の歯科保健活動の活性化を図る。
- 学校において希望する者に対して集団的に「フッ素洗口」を行う場合は、学校医、学校歯科医、学校薬剤師の協議により保護者や教職員の十分な理解を得て、各学校の事情に応じて実施する。
- むし歯や歯周疾患等の学習により、一生を通じて健康であることの大切さを学ばせる。
- 不正咬合、顎関節雑音、発音障害等の早期発見・早期治療を促すなど口腔機能の健全育成を図る。
- 学童期の歯科保健を推進する上で学校歯科医の役割は大きく、歯科医師会の協力を得て、予防活動及び早期発見・早期治療を含めた総合的な対策を行う。
A 地域歯科保健における取り組み
- 「歯の健康推進指定校」を設定し、その実践活動を周囲校に波及させ指導の改善と充実を図る。
- 学校保健委員会は本市の全小学校で設置され運営されているが、更なる組織的な取り組みを通して、学校・家庭・地域および歯科医師会の連携を密にして予防並びに歯科保健指導体制の発展を促す。
- 家庭・地域との連携を深め、乳幼児期から指導の継続性を図る。
5.思春期(13〜19歳)
(1)現状と課題
a)現状
この時期は歯科医学的にみると永久歯列の完成期であるといえる。
口腔内に萌出した永久歯はまだ充分成熟しておらず、極めてむし歯に罹りやすく又すぐに重症化する。
また、食生活や食事内容の変化による口腔環境の悪化と口腔に関する関心の低さ、基本的知識の欠如、歯列不正等のために歯口清掃の不充分なことによる歯肉炎の増加傾向も指摘されている。
むし歯及び歯肉炎を初発とする歯周疾患は永久歯喪失の最大の原因でもあり、「80・20運動」の目標達成のためには、この時期が大変重要である。
本市における中学・高校のむし歯有病者の年次推移をみると依然全国平均より高く、90%以上の高率を示し、過去からほぼ横ばい状態である。
この時期に自分の口腔内に関心を向けさせ、自らの健康は自らで守り育てる態度や習慣を身につけさせることは極めて重要であり、そのためには集団で健康について教育できる最後の機会である中学・高校の歯科保健教育及び指導の役割は非常に大きいといえる。
b)今後の課題
今後の課題として以下のものがあげられる。
@ 歯や口の健康に対する意識の高揚とその育成
A 学校・家庭・地域の連携による歯の保健指導の充実と推進
B 歯や口の健康を守り育てる環境の整備
C 積極的なむし歯や歯周疾患の予防への取り組み
(2)基本理念
学校・家庭・地域の連携により、以下の通り主体的に健康づくりに取り組む生徒を育成する。
@ 口や歯の健康の保持・増進に関する知識を習得する。
A 口や歯の健康状態に関心をもち自らの健康は自らで守る態度や習慣を身につける。
B むし歯や歯周疾患の予防に必要な歯質の強化や歯口清掃、望ましい食生活及び習慣を体得する。
(3)対 応 策
@ 学校保健関係者の意識の高揚
各種研修会を通して「歯科保健」に関する情報の提供に努め、学校長、保健主事、養護教諭、担任、学校歯科医、その他の学校保健関係者の意識の高揚を図るとともに保健事業推進の指導者の育成を行う。
A 学校保健関係者の連携
中学・高校・大学と年齢に応じた保健指導を計画し総合的に実施する。
そのためには、各校の歯科保健体制の確立と関係者間の密接な連携と協力関係を確立する。
B 学校教育の中における歯科保健の充実
教師自らが歯科保健の重要性を正しく認識して、生徒に「一生自分の歯でかめる」ように自分で自分の歯を健全に保つ習慣を身につけるために、歯科保健指導の充実をはかるとともに、教師自身も正しい歯科保健知識を身につけることが必要である。
C 学校保健委員会の設置促進・活性化
すべての学校において学校保健委員会を設置し活性化を図り、組織的な取り組みを通して、学校・家庭・地域の連携を密にして、予防並びに指導の体制の確立を促す。
D 学校におけるフッ化物の応用
中学・高校にかけては、むし歯の発生とともに歯肉炎・歯周病の発生が増加する時期といえる。
その予防・治療のため、ブラッシングの重要性を指導するとともに、集団的に「フッ素洗口」を行う場合には、その施設を充実する必要がある。
なお、特に中学校において希望する者に対して集団的に「フッ素洗口」を行う場合は、学校医、学校歯科医、学校薬剤師の協議により、保護者や教職員の十分な理解を得て各学校の事情に応じて実施する。
E 学校健診の充実と活用
平成7年度より学校歯科健診の内容が一部改正され、診査基準が新たに設けられ保健指導の強化が図られた。各学校においては定期健診、並びに臨時健診を実施し、その目的たる事後措置を的確に行うよう努める。
6.成人期(20〜64歳)
(1)現状と課題
平成7年度に実施した成人病巡回健診時の歯科調査によると、むし歯有病者率は、20歳代 100%、30歳代 100%、40歳代 100%、50歳代
100%であり、一人平均現在歯数は、20歳代 27.0本、30歳代 27.3 本、40歳代 25.9本、50歳代 24.2本であり、この時期のほとんどの者がむし歯有病者であり、現在歯数は加令に伴って減少している。
特に現状ですでに50歳代で現在歯数が22.5本であり、「80歳で20本以上」という最終目標との格差は大きい。
歯の喪失の原因は、主にむし歯と歯周疾患であるが、定期的な健診と適切な処置を実施すれば、喪失歯はかなり減少させることができる。
しかしながら、この時期は定期的な歯科健診体制がとられておらず、本市では昭和60年度より老人保健法に基づく成人病巡回健診(対象者は40歳以上)で歯科健診を実施しているが、平成7年度の受診者が僅か450名(国保加入者の
0.6%)であり、事後指導の歯科保健教室の参加者は55名(0.07%)であった。
また、平成6年度より開始された国保短期人間ドック歯科コース(対象者は佐世保市国保健康保険に加入している20歳から69歳までの被保険者)の平成6年度の受診者34名、平成7年度は23名であった。
平成7年度からは、老人保健法に基づく総合健康診査の中に、40歳・50歳時における節目健診として歯周病健診が加わったことにより、本市でもこの具体的な実施方法について現在検討中である。
(2)基本理念
この時期は、学生、勤労者、主婦といった様々な広い範囲の対象者を抱えており、それぞれの対応が必要である。
学生には学校、勤労者には事業所における歯科健診体制を充実することが効果的であるが、自営業、農林水産業、主婦等には、なるべく利用しやすい歯科健診の実施や歯の健康教育の場が必要である。
(3)対 応 策
@ 歯科健診の拡大普及
現在実施されている成人病巡回健診や国保短期人間ドック歯科コースの受診者が少ないため、受診率の向上と各種事業の定着化を図ることが必要である。
A 総合健康診査における歯周病健診の実施の検討
平成7年度より導入された40歳・50歳の総合健康診査における歯周病健診(むし歯の健診も含まれている)の実施方法の検討を行う。
B 普及・啓発活動
学校卒業後、成人の多くは歯科健診の受診や健康教育への参加は本人の自主性にまかされているので、歯科疾患に関する知識、口腔内の健康の重要性、ブラッシング指導等を積極的に普及・啓発を行い、歯科疾患の予防と早期発見をすることが必要である。 そのため、「80・20運動」に加え、中間目標としての「65・25運動」の展開を行う。
C 健康教育等への促進
老人保健事業における歯の健康教育、健康相談、訪問指導の全市的な実施促進をはかることが必要である。
7.高齢期(65歳以上)
(1)現状と課題
日本人の平均寿命は世界のトップレベルとなったが、歯に関しては、長崎県の平成5・6年度の調査によれば、一人平均現在歯数は、60歳代 12.8本、70歳代
6.8本、80歳以上 5.1本となっており、健康で充実した老後を迎えるためには充分であるとはいいがたく、この状態は本市においても同様である。
高齢者が歯を喪失する大きな要因として歯周疾患(歯槽膿漏)があるが、この世代にあっては、若い時からの習慣及び高齢者自身の歯科保健知識の不足などの理由により、歯科保健の基本である正しい歯磨き習慣の定着が十分出来ていないのが現状である。
高齢者に対する施策としては現在、成人病巡回健診と国保短期人間ドック歯科コースがあるが、受診率は必ずしも高くない。
また、この時期は寝たきり、虚弱あるいは様々な障害による行動制限があるため、歯科医療を受けることができない高齢者も存在し、在宅あるいは施設における歯科保健・医療の充実が求められている。
(2)基本理念
高齢者が健康で快適な社会生活・家庭生活を確保し、生きがいのある人生を送るためには、高齢者になっても健全で豊かな食生活を確保することが重要である。
このためには、毎食後の口腔清掃を励行することは高齢期においても当然であるが、特に寝たきり、あるいは障害をもつ高齢者等に対して、そのQOL(生活の質)の向上のためには、関係機関の連携による口腔ケアを行うシステムづくりに努める必要がある。
(3)対 応 策
@ 歯科保健教育の充実と意識の高揚
むし歯と同様に歯を喪失する原因の多くが歯周疾患にあること、またむし歯と同様にその予防も可能であることを理解してもらうため、地域あるいは歯科医療機関で行う歯科保健教育を充実させる。
また、在宅要援護高齢者や施設入所高齢者を介護、支援している様々な関係者や介護者における歯科保健に関する意識の高揚を図り、さらに包括的な歯科保健医療サービスを提供するため、保健機関・医療機関・福祉関係団体の連携を強化する。
A 歯科健診の受診率の向上
成人病巡回健診あるいは国保短期人間ドック歯科コース等をはじめとした歯科健診についてPRすることにより、歯科健診の受診率を向上させ、早期発見・早期治療を目指す。
B 歯科医療へのアクセスの向上
高齢者は行動制限等のため、歯科の受診行動が低下する傾向にあるうえ、寝たきり、虚弱あるいは様々な障害のため歯科医療機関で受診することができない高齢者も存在する。
そのため、訪問歯科診療あるいは口腔衛生訪問指導等による在宅歯科保健医療の充実及び施設内の口腔衛生指導の充実を図ると共に、これらのサービスを提供するシステムを構築する。
C 各種研修会等の開催、マニュアル等の作成
要援護高齢者等の歯科保健指導に携わる関係者並びに介護者(家族も含む)に対する口腔衛生研修会・実技指導等の開催、口腔ケアのマニュアル等の作成・配布に努める。
D 高齢者医療・福祉施設における歯科保健の充実
高齢者のQOL(生活の質)を高めるために、口腔衛生の向上は重要であり、施設職員に対する歯科保健に関する教育・研修を行うとともに、施設と歯科医療機関との連携を強化する。
V その他の歯科保健
1.産業(事業所)歯科
(1)現状と課題
各事業所では、独自に歯科保健対策を実施されてるが、事業所と行政、歯科医師会との連携が十分にとれていないため、事業所歯科保健の現状が十分に把握されていない。
また、事業所においては、労働安全衛生法に基づき、歯やその支持組織に有害なものを取り扱う業務に従事する者に対して年2回の歯科健診が義務づけられているのみで、一般健診としての歯科健診は義務付けられていない。
産業歯科保健は、他の歯科保健分野と重複する分野ではあるが、その対象者は、思春期から高齢期までの各年齢層を含んでおり、集団に対する健診と指導を行う場としては、非常に効果的な分野である。
しかし、一般の勤労者はほとんど歯科健診受診の機会が少なく、この利点が十分に活かされていない現状にある。
平成6年度は本市において事業所歯科健診を実施したのは、5事業所で受診者は76名であった。
(2)基本理念
勤労者の歯科保健対策としては、職場等身近な場所での健康管理や、歯科健診、指導が実施されるよう体制づくりをすすめる必要がある。
市民の約4割が勤労者であることを考えれば、この分野における歯科保健は非常に重要であり、「80・20運動」を達成可能な目標とするためにも、産業(事業所)歯科における歯科保健活動を充実することが大変重要である。
各事業所において具体的目標を掲げ、行政、歯科医師会の支援、指導に基づき、その実現に向けて事業所全体での努力が望まれる。
(3)対 応 策
@ 事業所歯科保健に関する実態の把握及び産業歯科医師の確保
事業所における歯科保健の実態を把握する必要があるとともに、産業歯科医師の確保を目指し、歯科健診や事後措置、歯科保健指導等の事業所における歯科保健システムづくりを行う必要がある。
A 事業所等における歯科健診の充実
事業所の定期健診や人間ドックに併せて歯科健診を実施し、さらに歯科健康教育としてセミナー、講話を歯科医師や歯科衛生士等によって行うことも必要である。 また、事業所で歯科健診が実施されない場合やパート労働者など集団健診の機会に恵まれない人々については、市、事業所、歯科医師会、歯科衛生士会との連携のもとに、歯科健診、健康教育を受けるよう啓発に努める。
2.要援護高齢者に対する歯科
(1)現状と課題
在宅の要援護高齢者に対する歯科医療は、家族の介護により歯科医院を受診するか、訪問歯科診療に頼る方法が考えられるが、本市においては、
@ 訪問歯科診療サービスについて、市民に充分知られていないこと、
A 訪問歯科診療を受けるシステムが確立していないこと、
B 医師、保健婦、あるいはホームヘルパー、在宅介護支援センター等の要援護高齢者に関わる他の専門家や機関における歯科保健に対する意識や関わりが必ずしも充分ではなく、これらの専門家等と歯科部門との連携が不十分であること、
C 合併症などにより在宅での治療が困難な患者を受け入れる二次医療機関の確保が十分ではないこと、
D 本人及び家族等の介護者においても、口腔内衛生に関する意識が不十分であること、 等の課題があり、在宅要援護高齢者が必要な歯科保健サービスを受けることができない状況にある。
平成7年度に実施した「佐世保市在宅高齢者実態調査」でも、在宅要援護高齢者の約半数は、なんらかの歯科に関する愁訴を訴えており、訪問調査を行った者のうち36%は在宅治療を希望していた。
また、福祉施設等に入所している高齢者の歯科保健は、治療の必要に迫られた場合に介護者に伴われ一般開業医を受診しているのが現状であり、予防指導や健診あるいは口腔内の衛生保持等の取り組み状況は、施設によって様々であり必ずしも施設ケアのメニューの中に口腔ケアが十分組入れられていない状況にある。
(2)基本理念
人間が快適に生きるという基本理念からも在宅あるいは施設入所の高齢者に対する歯科保健サービスの重要性は極めて大きく、歯科処置による口腔機能状態の改善により、食生活の向上、生活機能の向上、食べる楽しみ、生きる意欲の増進が図られ、ひいては介護者の負担が軽減され、介護能力の向上にもつながることになる。
要援護高齢者における歯科保健の解り組みとして、まず、高齢者の介護に関わる専門家や機関、家族等の介護者の歯科保健に関する意識を高め、協力して口腔内の衛生保持を支援する必要がある。
本市においても、歯科診療機関に受診することが困難な在宅の要援護高齢者に対して、在宅での基本的な歯科保健サービスを提供するため、関係者・機関の連携により、訪問歯科診療あるいは歯科衛生指導を行うシステムを構築することが求められている。
また、施設入所者にとって施設は生活の場であると同時に、家庭復帰の訓練の場でもあり、歯周疾患の予防、咀嚼機能の獲得・改善、あるいは高齢者等においては義歯装着を行うなど、基本的な歯科保健サービスを受けることで、入所者の日常生活能力の向上とQOL(生活の質)の向上が図られる。
施設入所における全身健康管理とは口腔領域をも含めたものである必要があり、「80・20運動」は、施設入所者も享受できるものでなければならない。
さらに、在宅あるいは施設での一次保健医療サービスにあわせて合併症等により入院あるいは医学的管理下において治療を行う必要がある患者を受けいれる二次歯科医療体制の整備が必要である。
(3)対 応 策
@ 在宅歯科診療システムの
確立保健・医療・福祉関係者、機関の連携により在宅歯科診療システムづくりを行う。
A 在宅要援護高齢者支援の専門家に対する教育
保健婦あるいはホームヘルパー等の在宅要援護高齢者に関わる専門家等に対する歯科保健に関する研修、教育
B 施設入所者の歯科治療に対するニーズの把握と、正確な情報の収集
C 施設職員に対する十分な歯科保健教育
D 各施設毎の歯科保健サービスの提供
各施設における協力歯科医師を選任し、その指示のもとに施設入所者に対する定期歯科健診や指導の実施等の歯科保健サービスの提供を行う必要があり、施設の規模に応じて歯科診療設備あるいは携帯用診療機器の設置と、歯科医師、歯科衛生士の派遣システムを検討する必要がある。
E 二次歯科医療体制の整備
在宅においての歯科診療が不可能な高齢者に対する二次歯科医療のシステムの確立を図る。
3.障害児(者)に対する歯科
(1)現状と課題
本市における身体障害者手帳所持者は、平成8年3月末現在で8,117人あり、その内重度者(1級・2級)は3,723人で、全体の45.9%を占めている。また、65才以上の手帳所持者は4,217人で全体の52.0%を占めており、重度化・高齢化が進行している。
療育手帳所持者(知的障害者)は1,292人であり、そのうち重度者(A1・A2)は527人で全体の40.8%を占め、重度化傾向がみられる。
歯科疾患について、障害者は健常者に比べて高い有病率を示しているが、特別な場合を除き、障害そのものがその原因ではなく、口腔衛生に関し自己管理が行き届かず初期の段階での処置が行われないこと等が原因としてあげられる。
つまり、介護者(保護者・施設等)にとっては障害者の介護に専念するあまり、障害児(者)の口腔内の管理・予防まで行き届かないのが現状となっている。
併せて歯科治療、歯科管理面で特別な環境や設備を必要とし、また歯科診療所まで搬送の問題等もあり、障害者の受診は困難な状況となっている。
また、障害者手帳あるいは療育手帳を持っている者のみならず、様々な障害や難病・特定疾患等をもつ市民に対する歯科保健医療の充実も必要である。
現在、県の委託事業として県歯科医師会による障害者に対する歯科巡回診療が行われているが、その頻度及び内容は十分ではなく今後の課題としては、次の2点があげられる。
@ 在宅障害児(者)に対する歯科保健・医療
在宅障害児(者)が身近な地域で歯科医療機関に受診することが困発である。 また、通所している保健・福祉・教育施設における口腔衛生指導や障害児(者)自身、あるいは介護者に対する情報提供や指導も不十分である。
A 施設入所者の歯科保健・医療
現在、施設に入所している障害児(者)に対する歯科治療サービスは、市内開業医により提供されているのがほとんどであるが、受診者側及び診療者側の負担は大きい。
ただし、県立コロニーでは、昭和62年4月より市歯科医師会により、土曜の午後1:30〜4:30までの間、27名の当番制で施設内診療を行っている(通常開業歯科医1名及びそのアシスタント1〜2人、及びコロニーの専属の歯科術生士1名による)。
しかし、その他の施設では施設内診療は実施されておらず、歯科医療へのアクセスが悪く、歯科保健指導も不十分である。
(2)基本理念
障害児(者)に対する歯科保健は、健常者のそれと変わりなくライフステージ全般にまたがっている。
障害者においては口腔機能障害(哺乳機能不全、摂食機能障害等)により、健常者に比ベ歯科疾患が発症しやすく、しかも放置される傾向にあるため、重症化しやすい。
そのため、その後のライフステージに与える影響は大きいので、早期からの口腔機能の育成が重要である。
また、自分自身で歯の健康管理ができない人については、保護者、介護者の果たす役割は特に重要であるため、障害者ばかりでなく、保護者、介護者をも支援する地域歯科保健体制の整備を行なう必要がある。
これら障害児(者)の歯科保健の推進は、ノーマライゼーションの実現のため、極めて重要である。
(3)対 応 策
@ 障害児(者)歯科協力医制度の活用
歯科医師会の協力を得て連格体制を緊密にして、障害児(者)自身が本制度を有効に活用するためのシステムづくりを行う。
A 在宅障害者の歯科保健対策
在宅障害者においては、県及び市内関係機関の協力により、
B 施設入所者の歯科保健対策
施設においては、県及び市内関係機関の協力により、
C 養護学校における歯科保健対策
養護学校においては、学校歯科医と学校関係者が一体となり、歯科保健を積極的に推進するよう努める。
D 「子ども発達センター(仮称)」における歯科相談・健診機能の検討
現在、本市では、市内の発達障害をもつ子どもたちの実態調査の結果をふまえ、関連団体との連携の強化を含む、今後の療育のあり方を総合的に検討しており、その中核となる施設として「子ども発達センター(仮称)」設立構想がある。
このセンターに歯科相談・健診機能を持たせることについても引き続き検討する。
E 全身麻酔下の歯科治療のシステム化
診療所での外来治療が困難である場合は、全身麻酔下等での歯科治療が必要となり、本市においてこれらの歯科治療を行うための体制作りについて検討する。
F 歯科保健に関する情報提供
様々な障害や難病・特定疾患等をもつ人に対して、歯科保健に関する情報提供を行うとともに、障害児(者)団体等との協力により、障害児(者)に対する保健指導・衛生教育の充実を図る。
G 関係機関の連携強化とチームアプローチ
様々な障害や疾患をもつ人に対する歯科保健医療を行うにあたっては、医療をはじめとして関係機関の連携が不可欠であり、さらに、口腔機能障害(摂食機能障害等)をもつ人に対して、医師会、保健・福祉関係者等のチームアブローチによりその障害を改善させる。
4.休日救急・二次歯科医療体制
(1)現状と課題
本市における休日救急歯科診療は、平成元年8月より歯科医師会員の診療所において、休日の午前10:00〜12:00までの間、市を北部及び南部の2ヶ所で輪番制により行われている。その一日平均来院患者数は3名である。
休日診療以外にも一年間を通じて夜間にも来院する救急患者に対しては、かかりつけの歯科医師が対応している。
開業歯科医では対応できない二次歯科医療については、開業歯科医から市内に3ヶ所ある二次医療機関へ紹介しているが、その患者受け入れは、平成6年4月より平成7年3月までの1年間に歯科診療所より二次医療機関を紹介された症例446例(佐世保市総合病院 28例、佐世保共済病院 371例、長崎労災病院 47例)にみられるように、一部の医療機関に集中する傾向にあり、症例によっては長崎、佐賀、福岡県等の大学病院での受診を余儀なくされている。
また、平成7年7月〜8月の日常の歯科治療において、本市内の歯科診療所より病院歯科への診療依頼、紹介件数の調査によると、病院歯科への紹介症例数が60例、大学病院への紹介症例数が6例となっているが、これらは歯科医師の個人的な連携によるものが多く、本市における二次歯科医療体制は不十分な状況にある。
(2)基本理念
本市における保健医療サービスの向上のため関係機関の協力により、市民が安心して、休日救急歯科医療あるいは二次歯科医療を受けることができる体制づくりを行う必要がある。
(3)対 応 策
@ 歯科医療においては公的機関が少ないため、そのほとんどを開業医が担っており、総合病院歯科等の連携を含めた今後の救急歯科医療の在り方について、病院歯科と一般開業医、専門医、行政等による協議・検討を行う。
A 当圏域だけで十分にカバーできない場合は、大学をはじめとする他地区の歯科医療機関との連携を検討する。
5.離島対策
(1)現状と課題
a)現状
本市は九十九島が散在する国立公園をもつ市で、離島振興法指定有人島は2島であり、人口は高島 288名、黒島 882名、(平成7年度11月調査)であるが、若年層の流出が急激に進んで高齢者の占める割合が高くなっている。
小離島地区のために人口が少ないこと、また、歯科診療所の設置が無いことや歯科医師や歯科衛生士等の確保や継続した派遣体制が困難であり、ほとんどの人が交通の便と時間的に著しい制約を受けながら島外等の他の地域で歯科治療を受けている。
現在、保健所から成人病巡回健診や市教育委員会からの就学時、定期・臨時歯科健診と協力医により歯科健診、歯科保健指導・教育等の予防活動を実施しているのが、予防、早期発見、あるいはきめ細かな継続的な治療の観点からこれらの歯科保健医療サービスは不十分な状況にある。
b)課題
園や学校において歯科保健教育と予防を充実させ、幼児期、学童期、思春期の歯や口腔系機能の健康の保持・増進を図る。 また、歯科医師や歯科衛生士等の継続な派遣体制等の歯科治療や歯科保健活動を実施する必要がある。
(2)基本理念
本市の離島の歯科保健は、過疎化と交通の不便さ、あるいは人材の不足により、歯科保健医療サービスが十分でないことから、県のみならず市の関係機関の連携により、人的、物的両面にわたる歯科医療資源の確保など、離島ゆえの格差を極力解消できるような支援が必要である。
(3)対 応 策
離島の歯科保健対策としては歯科診療の確保、歯科医師・歯科衛生士等の派遣体制の整備、歯科保健活動の充実と知識の普及が必要である。
このため、県をはじめとする関係機関と連携し、その役割を明確にしながら、今後次のような事項に配慮し検討していく必要がある。
@ 歯科保健の意識の高揚と歯科診療体制の充実
a.成人病巡回健診時の歯科健診への島民の参加を促し、歯科保健に対する知識の普及と予防の拡大を図る。
b.その他離島における診療体制の充実を図る。
A 園や学校における歯科保健指導の充実
むし歯の初発及び多発期である幼児期、学童期、思春期の歯科保健教育と予防を重視し、間食のあり方やブラッシングを徹底すると同時に学校歯科医の指導により保護者や教職員、学校の十分な理解や協力を得て、集団での「フッ素洗口」の導入を検討する。
お わ り に
佐世保市における歯科保健水準は、全国的にみてもまだ十分とはいえない現状である。
しかしながら、行政、医療、福祉、及び教育関係機関の連携のもとに様々な歯科保健に関する取り組みがなされてきており、今回、関係機関の総意のもとで、現在の状況及び施策に関する分析・評価を行い、さらにライフステージを貫く将来ビジョンを明確にし、「佐世保市歯科保健大綱」としてとりまとめることができた。
関係各位のご尽力に感謝するとともに、今後、この大綱にもられているさまざまな施策が実現し、「80・20運動」が実現するよう、関係各位の更なる協力をお願いする。
佐世保市歯科保健大綱